ポール・スミス氏。
と書くと堅苦しいので、「Sir Paul」にしよう。
Sir Paulと初めて会ったのは2013年春のこと。
その前年に私は無謀ともいえる方法でロンドンに行き、大バクチを打った。
「私にはアーティストとして才能があるのか??」
その答えが欲しくて、何のコネもないロンドンのアート界に飛び込もうとした。
その頃まで私は人形作家として、また、絵を描いたりオブジェを作ったり、アート活動をやっていた。
人形は注文をもらって作るスタイルで仕事にはなっていた。でもそれで食べていけるほど甘くはない。他に仕事をして食いつないでいきながら、コツコツと作品を作っていた。
そして私は孤独だった。
芸大や美大を出ていない。高校で美術の授業を取ったことすらない。アート系のサークルにも、人脈すらもない。全くの独学で人形を始め、絵を描き、アートに触れていた。でも、趣味や楽しみでやっていたのではない。もう嫌だ、やりたくない、もう辞める!と思っても、「魂」が許してくれない。何かが私に作らせている。
時には泣きながら粘土と向き合うこともあった。辞めたいのに辞められない。つい粘土と向き合ってしまう。それをアーティストにとって「業(ごう)」と言うんだよ、とあるベテラン芸術家の方に言われたのだが、そうなのかもしれない。
私は「業」のまま作り、時には狂ったように部屋の壁に巨大な絵を描いたり、1メートル近いオブジェに挑戦しようとした。たった一人で。
私の中にいる、熱いドラゴン。
ドラゴンの大暴れに耐えきれなくなって、突然ひらめいたのが、
「ロンドンに行こう!」
だった。
ロンドンには一度行ったことがあったが、あちこちにミュージアムやギャラリーがあり、アートに溢れている。そして何かを創造したくなるクリエィティブな空気。自由な開放感。私を夢中にさせる全てがロンドンには詰まっている。そんなロンドンで、勝負がしたい!
そして私は賭けに出た。
アートの街・ロンドンで、アート関係者に私の才能を見てもらおう。
「才能がない」と言われたら、人形も絵も、一切辞める。
「オッケー!君には才能がある!」と言われたら、このまま続けよう。
今思えばアホな思い付きだが、私は真剣だった。
さっきも書いたように、アート関係者と一切縁がなかった私には、私の才能をジャッジしてくれる機会がなかった。せいぜい私の個展で、
「あーら、カワイイ」
「良い趣味をお持ちね」
と言う人がいるぐらいで、私の作品についてシビアに評価してくれる人は皆無だった。
そして私はすでに52才になっていた。
HSPやADHDなどの気質がマイナスに出てしまい、人生をこじらせて底辺で生きる毎日。夜勤の仕事の合間にする創作活動だけが生きる支えだった。このまま社会の隅っこで静かに生き、死んでいくのだろうか。たった一度の人生で、小さな輝きすら残せずに。
静かに生きていければ、それはそれでいい。
そんな人生も本人がハッピーなら最高だ。
でも私の中のドラゴンが大暴れしている。それはたいてい作品を作る前に現れて、私を熱く駆り立ててくる。さあ作れ!表現しろ!と。このドラゴンのせいで、私は普通の幸福をいっぱい諦めてきた。お金にもならないアートをやりながら、底辺で生きざるを得なかった。
そのドラゴンがロンドンを選んだのだろう。
私は絵やオブジェや人形、あらゆる作品を背中に負い、カバンに詰め込んで、成田空港から旅立った。離陸した瞬間に、必死で祈ったことを今でも忘れない。
神様、どうか、私に答えをください。
アートを続けていいのか、辞めるべきなのか。
辞めるべきなのなら、才能がないのなら、ドラゴンを追い出してください。その代わりに平安をください。私はアートを辞めて静かに生きていきます、と。
さて、神様の答えは、ロンドンに着いて三日後に出た。
長くなるし、私がもし本を出す機会があれば書いてみたい。どんな奇跡が私に起きたのか、を。
神様は、不思議なルートをたどって、私を「Sirポール・スミス」へと導いた。そして二年後にはロンドンのアルバマールストリートの「ポール・スミス フラグショップ」で個展が開催された。まぎれもない、私の個展だ。
そのために2013年春にSirポールと初めて彼のオフィスで会い、ミーティングをした。
Sirポールとは最初は会議室で会う予定だった。
初対面のSirポールは気難しそうな顔をしていた。彼の部下と秘書、そして通訳に囲まれ、いかにもSir!と言った厳格な雰囲気。
が、私を見た瞬間、なぜか「オフィスで話そう」と言いだし、スタスタと歩き出した。慌ててついて行くと、オフィスに入ったとたん、彼はさっきと打ってかわってオーバーすぎるリアクションで話し、笑い、どんどんアイデアがひらめくのだろう。「こんなのはどう?」「あ!僕の宝物を見せてあげる!」と話がポンポン飛び、さらには部屋の中で自転車に乗りだし、「ヤッホー!」と大喜び。
私は驚くどころか、
「この人、私と一緒!」
とめちゃくちゃ嬉しくなった。私も同じ。話があっちこっちに飛び、話してる最中でアイデアがポンポン湧き、頭の中はひらめきが高速回転してる感じ。それまで普通の人の中で生きてきたので、私のこんな特異さが受け入れられず、
「変な人」
「おかしいんじゃないの?」
と笑われるのがオチだった。だからずいぶん自分を殺して生きてきた。普通の社会で生きるには、こんな特異さが邪魔になる。特に「周りと同調しなきゃ」の日本では。
それが、目の前に私と同じ人がいる!
私は相手が世界のポール・スミスというよりも、お互いに小さな子ども同士で、一緒に空想の中世界で遊んでるという親近感を覚え、Sirポールと私はキャッキャッとはしゃぎながら楽しい時間を過ごした。30分だけ、と聞いていたのに、なんと二時間も経っている。さすがに秘書が「そろそろ終わりましょう」と声をかけ、私たちの遊びは終わった。
それから2年後、私はロンドンのフラグショップで個展を開催してもらい、Sir ポールと再会を果たし、その後も会い、クリスマスカードを送ったり、もらったり、先日も彼の動画に私がプレゼントした作品が登場してると聞かされ、「そんなに気に入ってくれたんだ」と嬉しくて笑ってしまった。世界のポール・スミス。でも私にとっては、少年のようなSirポール。高速回転のひらめきとアイデアの塊の、天才。
そんな彼と、またお互い子どもに戻って遊びたい。近い将来、叶う気がする。たぶん、きっと。諸事情のため、今回はそう、ぼかしておこう。See you again soon!
Dear Sir Paul
When I met you at first on 2013 at your office in London, I was so frightend!
“We are similar!”
So creative, having lots of ideas, good inspiration,
and full of good curiosity like pure child.
We were excited and talked our ideas of my exhibition at Paul Smith Albemarle street on 2014.
I’m looking forward to meet you and hear your amazing story!
Best Regards,
Kazumi Akao