誰が想像するだろう。
パッと見、地味で存在感のない私の内面に、百貨店が存在することを。
百貨店の中にはいろんなお店がある。
「好奇心」「寂しさ」「行動力」「臆病」「繊細」「大胆」「常識的」「非常識」「優しさ」「小悪魔」「気まぐれ」「自由」「従順」「大ざっぱ」・・いくつもの名前のお店がひしめきあい、活気と輝きを放っている。
各ショップの店長が用事があると私を呼びに来る。
「好奇心」の店長が「マーケティングを学んでみたいんだけど」と言うと、それが必要ならば、
「いいわ。学んでみなさい」
とゴーサインを出す。
「行動力」の店長が「東京に行きたいんだけど」と言いに来ると、私は言う。
「ダメよ、今は。コロナが収束するまで我慢しなさい。でもあなたの気持ちはよくわかるわ」
と共感するのを忘れずに。
百貨店のオーナーである私は、各ショップに寄り添い、どのスタッフもハッピーに働けるよう心配りをする。
先日は「寂しさ」の店長がしょんぼりして社長室にやって来た。もう耐えられないぐらい寂しい。誰かに慰めてほしい。もう一人では無理だ、と。そこで私はしょぼくれた彼に語りかける。そうかそうか。寂しいよね。宇宙に一人放り出されたような、深い孤独感を君は味わってるんだね。
でもそう感じてしまってもいいの。人間として当たり前の感情だもの。それに大丈夫、私がついている。あなたの寂しさは私が受け止めてあげる。誰かにあなたを引き渡すことはしない。あなたにつけ込んで利用する、一見優しそうなタヌキジジィには。
そう。社長である私の仕事は、私の大事なスタッフたちを外敵から守ること。そして、どの子も充分輝けるように、認め、励まし、しっかりと背中を押すこと。そうしてスタッフたちはいきいきと自分らしく働き、「カズミ百貨店」を盛り上げていく。
そんなセルフコンパッションを私は今日も欠かさない。自分を愛し受け入れられるのは、ずる賢いタヌキジジィではなく、私だけなのだから。
今日も私の内面で「カズミ百貨店」は活気に溢れ、私を創作へと駆り立ててくれる。さあ、次はどのお店の店長が相談に来るのだろう。社長室でコーヒーを飲みながら、誰かがドアをノックするのを私は待っている。