小さい頃から私は「お姫様」だった。
末っ子な上に体が弱かったせいで、いつも両親や兄、祖父母やたちが心配して世話を焼いてくれた。私はただ「誰かが何とかしてくれる」と甘えていれば良かった。
この、
「誰かが何とかしてくれる」
というお姫様気質は大人になっても抜けなくて、特に彼氏ができると「何とかしてよ」と頼るようになった。学生時代はまだいい。まだ女性慣れしてない男の子たちは、頼られた嬉しさでホイホイ役立とうと頑張る。私はただ彼らに「私、自分では何もできないの」オーラを出してますます喜ばせていた。
そんな私は女の子たちから「甘え上手」「男好き」などと揶揄され嫉妬されることもあった。だって本当なんだもん。一人では何もできないお姫様なの、私。
だがそんな甘えがいつまでも通ると思ったら大間違いで、この「お姫様気質」のせいで、後世はずいぶん苦労した。
当たり前だが社会に出ると「誰かが何とかしてくれる」なんてほぼあり得ない。特に仕事だと自分で判断し責任を取り、何がしかの結果を出さねばならない。困った時は協力はしてくれるが、「誰も何もしてくれない」のが大半で、お姫様気分でいると「何甘えてるんだ!しっかりやれ!」と上司や先輩に叱られたものだった。
結婚もしたが、元夫は「自分は自分、君は君」というフランス人的な個人主義タイプで、一度もお姫様扱いをしてくれなかった。結婚していた時はそれが不満だったが、今思えば私を一人の大人として接してくれていたのだろう。私は何もしてくれない彼に腹を立て、哀しみ、それが原因ではないが結婚生活に幕を下ろした。
離婚してから試練の波がこれでもか!とやって来た。お姫様な私をしごいてやろうと言う神様の千本ノックだったのだろう。私は「もうダメ」と泣きながら一本ずつノックを返した。ヨロヨロとひ弱な球だったが、神様には届いたのだろう。お姫様気質が少しずつ抜けて行き、こう思うようになった。
「誰の世話にもなりたくない。私は私。自分の力で生きていくわ」。
そしてもうアラカンという年になって、夫も子どもも家族もお金も家すらもない「ナイナイ尽くし」の私は独立を果たすことになった。今も独身だが、結婚前の独身の頃は一人暮らしはしていたとは言え、彼氏や父や兄といった男性保護者が何とか助けてくれた。
でも今度は違う。本当に誰の助けも得ずに、たった一人、田舎を飛び出して大都会で暮らそうと言うのだ。
「アーティストとして勝負したい」
という、何の保証もない夢を抱えて。
どんなことが私を待ち受けているのだろう。良いことも悪いことも数えきれないぐらいの経験が、新しい人生のドアの向こうで私を迎える準備をしている。私はそれらに立ち向かえるだろうか。また失敗をして痛い目に遭うのだろうか。それとも自由を手にしてアーティストとして大きく羽ばたいていくのだろうか。自分がどう変化するのか、どこまでパワーを発揮できるのか楽しみでもある。
さあ。小さな頃から身につけていたお姫様の王冠を捨て、代わりにヘルメットをしっかりかぶって独立革命に立ち向かおう。なんだか昔の学生運動の旗手みたいで勇ましすぎるけど、楽しみながらいろんなアクシデントを乗り越えていこうじゃないか。
がんばれ!元お姫様。お城から裸足で自立を果たしたきみを、心から応援しているからね。
神様がそう言ってくれていると信じて。